株式会社の資本と税金 signal_cellular_alt 難易度 2 schedule 45分

剰余金の配当と処分 - 株主への利益分配の仕組みを理解しよう

繰越利益剰余金の配当、利益準備金の積立、別途積立金の処理について学びます。株式会社における利益の処分方法を理解しましょう。

学習目標

  • check_circle剰余金の配当の仕組みを説明できる
  • check_circle繰越利益剰余金から配当を行う仕訳ができる
  • check_circle利益準備金の積立額を計算できる
  • check_circle別途積立金の処理を理解する
  • check_circle配当金支払時の仕訳ができる

剰余金の配当とは

**剰余金の配当(じょうよきんのはいとう)**とは、株式会社が株主総会の決議により、獲得した利益を株主に分配することです。

株式会社の純資産で学んだように、株式会社の純資産には「資本金」と「繰越利益剰余金」があります。このうち、繰越利益剰余金が配当の原資となります。

剰余金の配当の目的

株主は会社に出資した対価として、配当を受け取る権利を持っています。

  • 株主への還元: 利益を株主に分配し、投資への報酬を提供する
  • 企業価値の向上: 安定配当は株価の維持・向上につながる
  • 資本政策: 適切な配当により資本効率を高める

配当の決定プロセス

決算 → 利益確定 → 株主総会で決議 → 配当金支払

通常、決算日の翌日から3ヶ月以内に開催される株主総会で、取締役会が剰余金の処分案を提案し、承認を得て配当が決定されます。


繰越利益剰余金とは

**繰越利益剰余金(くりこしりえきじょうよきん)**とは、過去から蓄積された利益のうち、まだ分配や積立を行っていない部分です。

繰越利益剰余金の性質

貸借対照表(B/S)の純資産の部に表示されます。

【貸借対照表の純資産の部】

純資産の部
  資本金                  10,000,000円
  資本剰余金
    資本準備金             1,000,000円
  利益剰余金
    利益準備金               500,000円
    繰越利益剰余金         3,000,000円  ← ここ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  純資産合計             14,500,000円

繰越利益剰余金の増減

増加する場合:

  • 当期純利益が発生した(黒字決算)

減少する場合:

  • 当期純損失が発生した(赤字決算)
  • 株主への配当を行った
  • 利益準備金や別途積立金を積み立てた

剰余金の配当の仕訳

剰余金の配当には、2つのタイミングで仕訳が必要です。

タイミング1: 株主総会で配当を決議したとき

株主総会で配当が決議されると、繰越利益剰余金が減少し、未払配当金(負債)が増加します。

また、会社法により利益準備金の積立が義務付けられています。

仕訳の考え方:

  • 繰越利益剰余金(純資産)が減少 → 借方
  • 未払配当金(負債)が増加 → 貸方
  • 利益準備金(純資産)が増加 → 貸方

例1: 基本的な配当の決議

取引: 株主総会で、繰越利益剰余金から配当金100万円を支払うことが決議された。なお、利益準備金として10万円を積み立てる。

仕訳:

借方:繰越利益剰余金 1,100,000 / 貸方:未払配当金    1,000,000
                                  貸方:利益準備金      100,000

解説:

  • 配当金100万円と利益準備金10万円の合計110万円が繰越利益剰余金から減少
  • 株主への支払義務(未払配当金)100万円を計上
  • 利益準備金10万円を積み立て

タイミング2: 配当金を実際に支払ったとき

配当金を株主に支払うと、現金(または当座預金)が減少し、未払配当金が減少します。

仕訳の考え方:

  • 未払配当金(負債)が減少 → 借方
  • 現金(資産)が減少 → 貸方

例2: 配当金の支払い

取引: 決議していた配当金100万円を、当座預金から株主に支払った。

仕訳:

借方:未払配当金 1,000,000 / 貸方:当座預金 1,000,000

解説:

  • 未払配当金(負債)が消滅
  • 当座預金から100万円が減少

利益準備金の積立

**利益準備金(りえきじゅんびきん)**とは、配当を行う際に会社法により積立を義務付けられている準備金のことです。

利益準備金の目的

配当により会社の財産が減少すると、債権者(銀行など)への支払いが困難になる可能性があります。そのため、無制限な配当を抑制し、一定の利益を会社に留保することを目的としています。

利益準備金の積立ルール

会社法では、以下のルールが定められています。

積立額の計算:

配当金額 × 10分の1

積立の上限:

(資本準備金 + 利益準備金)の合計が資本金の4分の1に達するまで

→ 上限に達した後は、積立は不要です。


例3: 利益準備金の積立額の計算

問題: 株主総会で配当金50万円の支払いが決議された。利益準備金の積立額を計算し、仕訳しなさい。

ステップ1: 積立額の計算

配当金額 × 10分の1 = 500,000円 × 1/10 = 50,000円

ステップ2: 仕訳

借方:繰越利益剰余金   550,000 / 貸方:未払配当金   500,000
                                  貸方:利益準備金    50,000

例4: 上限に達している場合

問題: 資本金200万円の会社で、現在の資本準備金が30万円、利益準備金が20万円である。株主総会で配当金60万円を決議した。利益準備金の積立額を計算し、仕訳しなさい。

ステップ1: 上限の確認

資本金の4分の1 = 2,000,000円 × 1/4 = 500,000円

現在の法定準備金合計 = 資本準備金300,000円 + 利益準備金200,000円 = 500,000円

→ すでに上限に達しているため、積立不要

ステップ2: 仕訳

借方:繰越利益剰余金   600,000 / 貸方:未払配当金   600,000

解説:

  • 法定準備金の合計が資本金の4分の1(50万円)に達している
  • 利益準備金の積立は不要
  • 配当金60万円のみを処理

例5: 上限に達していない場合の計算

問題: 資本金400万円の会社で、現在の資本準備金が50万円、利益準備金が30万円である。株主総会で配当金80万円を決議した。利益準備金の積立額を計算し、仕訳しなさい。

ステップ1: 上限までの残額を確認

資本金の4分の1 = 4,000,000円 × 1/4 = 1,000,000円

現在の法定準備金合計 = 資本準備金500,000円 + 利益準備金300,000円 = 800,000円

上限までの残額 = 1,000,000円 - 800,000円 = 200,000円

ステップ2: 積立額を計算

配当金の10分の1 = 800,000円 × 1/10 = 80,000円

80,000円 < 200,000円 → 80,000円を積立

ステップ3: 仕訳

借方:繰越利益剰余金   880,000 / 貸方:未払配当金   800,000
                                  貸方:利益準備金    80,000

解説:

  • 配当金の10分の1(8万円)が上限までの残額(20万円)より小さい
  • 小さい方の8万円を積み立てる

別途積立金

**別途積立金(べっとつみたてきん)**とは、特定の目的を持たずに、将来の不測の事態に備えて任意で積み立てる準備金です。

別途積立金の特徴

  • 任意積立: 会社法では義務付けられていない(株主総会で決議すれば積立可能)
  • 目的不特定: 事業拡張や設備投資など、幅広い用途に使える
  • 繰越利益剰余金の一部: 貸借対照表の純資産の部に表示

別途積立金と利益準備金の違い

項目利益準備金別途積立金
根拠会社法で義務付け任意(株主総会決議)
目的債権者保護将来の不測の事態への備え
上限資本金の4分の1まで制限なし
使途原則として取り崩し不可取り崩し可能

例6: 別途積立金の積立

取引: 株主総会で、配当金60万円の支払いと、別途積立金30万円の積立が決議された。利益準備金として6万円を積み立てる。

仕訳:

借方:繰越利益剰余金   960,000 / 貸方:未払配当金   600,000
                                  貸方:利益準備金    60,000
                                  貸方:別途積立金   300,000

解説:

  • 配当金60万円 + 利益準備金6万円 + 別途積立金30万円 = 96万円が繰越利益剰余金から減少
  • 別途積立金は純資産内での振替(資産の増減なし)

例7: 別途積立金の取り崩し

取引: 株主総会で、別途積立金20万円を取り崩して繰越利益剰余金に戻すことが決議された。

仕訳:

借方:別途積立金   200,000 / 貸方:繰越利益剰余金   200,000

解説:

  • 別途積立金(純資産)が減少 → 借方
  • 繰越利益剰余金(純資産)が増加 → 貸方
  • 純資産内での振替(資産の増減なし)

剰余金の配当と処分の一連の流れ

実際の企業における剰余金の処分の流れを見てみましょう。

事例: 株式会社ABCの剰余金の処分

前提条件:

  • 資本金: 500万円
  • 資本準備金: 80万円
  • 利益準備金: 30万円
  • 当期首の繰越利益剰余金: 200万円
  • 当期純利益: 150万円

ステップ1: 決算前の繰越利益剰余金

当期首の繰越利益剰余金 200万円 + 当期純利益 150万円 = 350万円

ステップ2: 株主総会での決議

以下の内容が株主総会で決議された:

  1. 配当金: 100万円
  2. 別途積立金: 50万円
  3. 利益準備金: 配当金の10分の1

ステップ3: 利益準備金の積立額を計算

上限の確認:
資本金の4分の1 = 5,000,000円 × 1/4 = 1,250,000円
現在の法定準備金 = 800,000円 + 300,000円 = 1,100,000円
上限までの残額 = 1,250,000円 - 1,100,000円 = 150,000円

配当金の10分の1 = 1,000,000円 × 1/10 = 100,000円

100,000円 < 150,000円 → 100,000円を積立

ステップ4: 配当決議時の仕訳

借方:繰越利益剰余金 1,600,000 / 貸方:未払配当金   1,000,000
                                  貸方:利益準備金     100,000
                                  貸方:別途積立金     500,000

ステップ5: 配当金支払時の仕訳

借方:未払配当金 1,000,000 / 貸方:当座預金 1,000,000

ステップ6: 決算後の繰越利益剰余金

決算前 3,500,000円 - 配当等 1,600,000円 = 1,900,000円

純資産の部の表示

剰余金の配当と処分を行った後の貸借対照表の純資産の部は以下のようになります。

配当前:

純資産の部
  資本金                  5,000,000円
  資本剰余金
    資本準備金              800,000円
  利益剰余金
    利益準備金              300,000円
    繰越利益剰余金        3,500,000円
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  純資産合計              9,600,000円

配当後:

純資産の部
  資本金                  5,000,000円
  資本剰余金
    資本準備金              800,000円
  利益剰余金
    利益準備金              400,000円(+100,000円)
    別途積立金              500,000円(新規積立)
    繰越利益剰余金        1,900,000円(-1,600,000円)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  純資産合計              9,600,000円

ポイント:

  • 純資産の合計額は変わらない(内部での振替)
  • 配当金支払時に初めて純資産が減少する

よくある間違いと注意点

注意点1: 配当決議時には現金は減らない

配当の決議時には、現金や預金は減りません。未払配当金(負債)が増えるだけです。

間違い:

借方:繰越利益剰余金 1,000,000 / 貸方:現金 1,000,000

正しい:

借方:繰越利益剰余金 1,000,000 / 貸方:未払配当金 1,000,000

注意点2: 利益準備金の積立額の計算

利益準備金は配当金額の10分の1です。繰越利益剰余金の減少額ではありません。

: 配当金50万円、利益準備金5万円を積立

間違い: 55万円 × 1/10 = 5.5万円

正しい: 50万円 × 1/10 = 5万円

注意点3: 上限の判定

利益準備金の積立が必要かどうかは、資本準備金との合計で判断します。

(資本準備金 + 利益準備金)≥ 資本金 × 1/4

→ この式が成り立てば積立不要

注意点4: 別途積立金は負債ではない

別途積立金は純資産の一部です。負債(返済義務)ではありません。


試験での出題パターン

簿記3級の試験では、剰余金の配当は第1問の仕訳問題として1〜2問出題されます(配点3〜6点)。

パターン1: 配当決議時の仕訳

問題文の例: 「株主総会において、繰越利益剰余金を財源として、株主配当金80万円を支払うことが決議された。なお、利益準備金として8万円を積み立てる。」

正解:

借方:繰越利益剰余金   880,000 / 貸方:未払配当金   800,000
                                  貸方:利益準備金    80,000

パターン2: 配当金支払時の仕訳

問題文の例: 「株主総会で決議された配当金50万円を、当座預金から支払った。」

正解:

借方:未払配当金   500,000 / 貸方:当座預金   500,000

パターン3: 別途積立金を含む処理

問題文の例: 「株主総会において、配当金60万円、別途積立金20万円、利益準備金6万円を繰越利益剰余金から積み立てることが決議された。」

正解:

借方:繰越利益剰余金   860,000 / 貸方:未払配当金   600,000
                                  貸方:利益準備金    60,000
                                  貸方:別途積立金   200,000

個人企業との違い

株式会社の剰余金の配当と、個人企業の引出金には重要な違いがあります。

項目株式会社個人企業
利益の分配株主総会の決議が必要自由に引き出し可能
使用する勘定科目繰越利益剰余金、未払配当金引出金
法的規制会社法の規制ありなし
準備金の積立利益準備金の積立義務不要

個人企業の資本処理については、個人企業の資本で学習します。


まとめ

このレッスンでは、株式会社における剰余金の配当と処分について学びました。

重要ポイント

  • check_circle剰余金の配当: 株主総会の決議により利益を株主に分配すること
  • check_circle配当決議時: 繰越利益剰余金(借方)→ 未払配当金・利益準備金(貸方)
  • check_circle配当支払時: 未払配当金(借方)→ 現金・当座預金(貸方)
  • check_circle利益準備金: 配当金額の10分の1を積立(上限: 資本金の4分の1)
  • check_circle別途積立金: 任意で積み立てる準備金(純資産内の振替)
  • check_circle配当決議時は現金は減らない(未払配当金を計上)
  • check_circle純資産の合計額は配当決議時には変わらない(配当支払時に減少)

次のステップ

次のレッスンでは、法人税等について学びます。株式会社が納める税金の会計処理を理解しましょう。