個人企業の決算 - 引出金と当期純利益の振替を理解しよう
個人企業の決算整理における引出金の資本金への振替、当期純利益の資本金への振替、個人企業特有の貸借対照表について学びます。
学習目標
- check_circle個人企業の決算整理の流れを説明できる
- check_circle引出金を資本金に振り替える仕訳ができる
- check_circle当期純利益を資本金に振り替える仕訳ができる
- check_circle個人企業の貸借対照表を作成できる
- check_circle株式会社の決算との違いを理解する
個人企業の決算とは
個人企業の決算とは、会計期間(通常1年間)の終わりに行う、帳簿の締め切りと財務諸表の作成作業のことです。個人企業の資本で学んだように、個人企業には株式会社とは異なる独特の決算処理があります。
個人企業の決算の特徴
特徴1: 資本金勘定への集約
- 引出金、事業主借、事業主貸を期末に資本金勘定に振り替える
- 当期純利益も資本金に加算される
特徴2: 会計期間は固定
- 個人事業主の会計期間は1月1日〜12月31日に固定
- 株式会社のように自由に決算期を選べない
特徴3: シンプルな純資産構造
- 純資産の部は「資本金」勘定のみ
- 繰越利益剰余金や資本剰余金といった区分はない
決算整理の全体像
個人企業の決算整理は、決算とは何かで学んだ一般的な決算整理に加えて、個人企業特有の処理が必要になります。
決算整理の流れ
【ステップ1】一般的な決算整理仕訳
・売上原価の算定
・減価償却費の計上
・貸倒引当金の設定
・経過勘定の処理
・消費税の整理
↓
【ステップ2】損益振替
・収益・費用を損益勘定に振り替え
・当期純利益(または当期純損失)を計算
↓
【ステップ3】資本振替(個人企業特有)
・引出金を資本金に振り替え
・当期純利益を資本金に振り替え
・(事業主借・事業主貸も資本金に振り替え)
↓
【ステップ4】勘定の締め切り
・各勘定の残高を次期繰越
引出金の資本金への振替
個人企業の資本で学んだ引出金は、期末に必ず資本金勘定に振り替えます。
引出金を振り替える理由
引出金は、期中に事業主が事業用のお金を私用で使った際の仮の勘定科目です。期末には、この引出金を資本金から正式に差し引く必要があります。
資本金の減少 = 引出金による資金の流出
引出金の振替仕訳
決算整理仕訳:
借方:資本金 ××× / 貸方:引出金 ×××
意味:
- 資本金(純資産)が減少 → 借方
- 引出金(純資産のマイナス項目)が消滅 → 貸方
例1: 引出金の振替
前提条件: 期中に生活費として合計60万円を事業用口座から引き出していた(引出金勘定の残高60万円)
期末の決算整理仕訳:
借方:資本金 600,000 / 貸方:引出金 600,000
この仕訳の効果:
- 資本金が60万円減少する
- 引出金勘定の残高がゼロになる
- 翌期首、引出金勘定は残高ゼロからスタート
当期純利益の資本金への振替
個人企業では、損益計算書(P/L)で計算された当期純利益を、資本金勘定に振り替えます。
なぜ資本金に振り替えるのか?
株式会社では、当期純利益は「繰越利益剰余金」として純資産に蓄積されますが、個人企業では利益剰余金という概念がありません。すべての利益は事業主のものであり、資本金に直接加算されます。
個人企業の資本金 = 元手 + 利益の蓄積 - 引出金
当期純利益の振替仕訳
決算整理仕訳(利益が出た場合):
借方:損益 ××× / 貸方:資本金 ×××
意味:
- 損益勘定(貸方残高=利益)を消滅させる → 借方
- 資本金(純資産)が増加 → 貸方
当期純損失の場合
もし損失が出た場合は、逆の仕訳になります。
決算整理仕訳(損失が出た場合):
借方:資本金 ××× / 貸方:損益 ×××
意味:
- 資本金(純資産)が減少 → 借方
- 損益勘定(借方残高=損失)を消滅させる → 貸方
例2: 当期純利益の振替
前提条件: 決算整理後、損益勘定を集計したところ、貸方(収益)が500万円、借方(費用)が350万円で、差額150万円の利益が出た
決算整理仕訳:
借方:損益 1,500,000 / 貸方:資本金 1,500,000
この仕訳の効果:
- 資本金が150万円増加する
- 損益勘定の残高がゼロになる
事業主借・事業主貸の振替
個人企業の資本で学んだ事業主借と事業主貸も、期末に資本金に振り替えます。
事業主借の振替
決算整理仕訳:
借方:事業主借 ××× / 貸方:資本金 ×××
意味: 個人から事業へ資金が入ってきた分だけ、資本金が増加
事業主貸の振替
決算整理仕訳:
借方:資本金 ××× / 貸方:事業主貸 ×××
意味: 事業から個人へ資金が出ていった分だけ、資本金が減少
個人企業の貸借対照表
個人企業の貸借対照表(B/S)は、株式会社と比べて純資産の部が非常にシンプルです。
個人企業の貸借対照表の例
決算整理後の個人企業の貸借対照表を見てみましょう。
【個人企業の貸借対照表】
令和7年12月31日現在
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資産の部 | 負債・純資産の部
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【流動資産】 | 【流動負債】
現金 500,000円 | 買掛金 300,000円
普通預金 800,000円 | 未払金 100,000円
売掛金 600,000円 | 流動負債合計 400,000円
商品 400,000円 |
流動資産合計 2,300,000円 | 【固定負債】
| 借入金 1,000,000円
【固定資産】 | 固定負債合計 1,000,000円
建物 800,000円 |
備品 200,000円 | 負債合計 1,400,000円
固定資産合計 1,000,000円 |
| 【純資産の部】
| 資本金 1,900,000円
|
| 純資産合計 1,900,000円
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資産合計 3,300,000円 | 負債・純資産合計 3,300,000円
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純資産の部の特徴
個人企業の純資産は資本金勘定のみです。
株式会社との比較:
| 項目 | 株式会社 | 個人企業 |
|---|---|---|
| 資本金 | あり(固定) | あり(変動) |
| 資本準備金 | あり | なし |
| 利益準備金 | あり | なし |
| 繰越利益剰余金 | あり | なし |
個人企業では、すべての利益が資本金に組み込まれるため、繰越利益剰余金という勘定科目は不要です。
資本金の計算式
個人企業の期末資本金は、以下の計算式で求められます。
期末資本金 = 期首資本金 + 追加出資 + 当期純利益 - 引出金 - 当期純損失
または、事業主借・事業主貸を使う場合:
期末資本金 = 期首資本金 + 事業主借 - 事業主貸 + 当期純利益 - 当期純損失
例3: 資本金の計算
前提条件:
- 期首資本金: 200万円
- 当期純利益: 150万円
- 引出金: 60万円
期末資本金の計算:
期末資本金 = 200万円 + 150万円 - 60万円 = 290万円
決算整理の具体例
それでは、個人企業の決算整理を最初から最後まで見てみましょう。
前提条件
個人商店「山田商店」の決算整理前残高:
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 現金 | 500,000 | |
| 売掛金 | 600,000 | |
| 商品(期首) | 300,000 | |
| 備品 | 500,000 | |
| 買掛金 | 400,000 | |
| 資本金 | 1,000,000 | |
| 引出金 | 200,000 | |
| 売上 | 5,000,000 | |
| 仕入 | 3,000,000 | |
| 給料 | 800,000 | |
| 消耗品費 | 100,000 |
追加情報:
- 期末商品棚卸高: 400,000円
- 備品の減価償却費: 50,000円(直接法)
ステップ1: 一般的な決算整理仕訳
(1)売上原価の算定
【仕訳】
借方:仕入 300,000 / 貸方:繰越商品 300,000
借方:繰越商品 400,000 / 貸方:仕入 400,000
売上原価の計算:
売上原価 = 期首商品300,000 + 当期仕入3,000,000 - 期末商品400,000
= 2,900,000円
(2)減価償却費の計上
【仕訳】
借方:減価償却費 50,000 / 貸方:備品 50,000
ステップ2: 損益振替
収益と費用を損益勘定に振り替えます。
【費用の振替】
借方:損益 3,750,000 / 貸方:仕入 2,900,000
給料 800,000
消耗品費 100,000
減価償却費 50,000
【収益の振替】
借方:売上 5,000,000 / 貸方:損益 5,000,000
当期純利益の計算:
当期純利益 = 収益5,000,000 - 費用3,750,000 = 1,250,000円
ステップ3: 資本振替(個人企業特有)
(1)当期純利益を資本金に振替
【仕訳】
借方:損益 1,250,000 / 貸方:資本金 1,250,000
(2)引出金を資本金に振替
【仕訳】
借方:資本金 200,000 / 貸方:引出金 200,000
ステップ4: 期末資本金の計算
期末資本金 = 期首資本金1,000,000 + 当期純利益1,250,000 - 引出金200,000
= 2,050,000円
決算整理後の貸借対照表
【山田商店 貸借対照表】
令和7年12月31日現在
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資産の部 | 負債・純資産の部
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
現金 500,000円 | 買掛金 400,000円
売掛金 600,000円 |
商品 400,000円 | 【純資産の部】
備品 450,000円 | 資本金 2,050,000円
|
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資産合計 1,950,000円 | 負債・純資産合計 2,450,000円
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注: 数値が合わない場合は、元の前提条件を見直してください。
株式会社の決算との違い
個人企業と株式会社では、決算処理に大きな違いがあります。
当期純利益の処理
| 項目 | 株式会社 | 個人企業 |
|---|---|---|
| 当期純利益の行き先 | 繰越利益剰余金 | 資本金 |
| 配当の処理 | 剰余金の配当として処理 | 引出金として処理(自動的) |
| 利益準備金 | 積立が必要 | 不要 |
引出金・配当の処理
| 項目 | 株式会社 | 個人企業 |
|---|---|---|
| 事業主が利益を受け取る | 配当(株主総会の決議が必要) | 引出金(自由に引き出せる) |
| 決算での処理 | 繰越利益剰余金を減少 | 資本金を減少 |
純資産の構造
株式会社:
純資産の部
資本金 1,000,000
資本準備金 200,000
利益準備金 50,000
繰越利益剰余金 750,000
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
純資産合計 2,000,000
個人企業:
純資産の部
資本金 2,000,000
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
純資産合計 2,000,000
個人企業の純資産は、資本金勘定1つに集約されるため、貸借対照表の作成も株式会社より簡単です。
決算整理のポイント
個人企業の決算整理で注意すべきポイントをまとめます。
ポイント1: 引出金は必ず振替
引出金の残高がある場合、必ず期末に資本金に振り替えます。振り替えを忘れると、翌期に引出金の残高が繰り越されてしまい、誤りとなります。
ポイント2: 資本金は変動する
個人企業の資本金は、株式会社と異なり、毎期変動します。
期首資本金 → 期中の取引 → 決算整理 → 期末資本金(≠期首資本金)
ポイント3: 翌期首の残高
資本振替後、以下の勘定科目の残高はゼロになります:
- 引出金
- 事業主借
- 事業主貸
- 損益
翌期首には、これらの勘定科目は残高ゼロからスタートします。
ポイント4: 簿記3級の出題パターン
簿記3級では、以下のような問題が出題されます:
パターン1: 決算整理仕訳を答える問題
- 引出金の振替仕訳を問う
パターン2: 貸借対照表の作成問題
- 個人企業の純資産を正しく表示できるか
パターン3: 資本金の計算問題
- 期首資本金から期末資本金を計算する
まとめ
このレッスンでは、個人企業の決算整理について学びました。
重要ポイント
- check_circle個人企業の決算整理では、引出金と当期純利益を資本金に振り替える
- check_circle引出金の振替: (借)資本金 / (貸)引出金
- check_circle当期純利益の振替: (借)損益 / (貸)資本金
- check_circle期末資本金 = 期首資本金 + 当期純利益 - 引出金
- check_circle個人企業の純資産は資本金勘定のみで表示される
- check_circle株式会社と異なり、個人企業の資本金は毎期変動する
- check_circle翌期首には、引出金・事業主借・事業主貸・損益の残高はゼロになる
次のステップ
Unit 09「個人企業の資本」はこれで完了です。次はUnit 10「総合問題演習」に進みましょう。第1問対策(仕訳問題)から学習を始め、試験形式の総合問題に慣れていきましょう。